おたまじゃくし
タリンコナスは、後ろが見えない。
視界が、狭いのだ。致命的に。

(あれやな、ミッ●ーの中の人やな・・・)

タリンコナスの視界はかぶりものの視界と近いと忍足は思っている。
この視界を得るには、一度穴を二つあけたダンボールを頭からかぶってみるといいだろう。
目玉は動かせない(メガネ=目であるため)、頭は回せない(首がないため)、
そもそも振り向くことさえままならない。(腰がないため)
180度回転しようとすると360度×X回ってしまう球体が恨めしい。
ナスは地団駄を踏んだ。短い手足を駄々っ子のようにばたばたさせた。

5分ほどじたばたしてスタミナがきれた。
手乗りサイズの体ではよくもった方ではないだろうか。
ナスは床で転がっていた。
時折吹くクーラーの風にヘタをたなびかせながら、ナスは考えた。
ナスは自分でも忘れかけていたが、頭脳は忍足侑士だ。策士と呼ばれた男だ。

「タリーン!」

何かひらめいたらしいナスはロッカーの前まで跳ねていった。


 * * * 
 
 タリンコナスは自分の後ろ・・・尻を見たかった。
話は数分前にさかのぼる。
タリンコナスのSweetハニー、ツンデレの中のツンデレ俺様、
跡部景吾がぽつりといった一言からはじまった。

「おたまじゃくし」

最近跡部と二人のときは高い確率でナスの姿になっている忍足は、最初空耳かと思った。
しかし、部誌にペンを走らせながら、跡部は再度同じ言葉を繰り返した。

「おたまじゃくし」
「タリンコナース??」

忍足は−−もとい、ナスはおたまじゃくしがどないかしたんか?と跡部に言った。
跡部にはナス語はわからない。しかし、ナスの返答をみすかしたように跡部はニヤリと笑った。


「おまえ、しっぽが生えてるぜ」


 * * * 

部室のロッカーに強く体当たりすると、扉が浮く。
そのことを知っていたナスは、宍戸のロッカーに突進した。
ババゴン、ババゴン。
持ち主の扱いが荒いせいでもともとゆがんでいた扉はあっさり開いた。
ナスがロッカーの中からひきずり出してきたのは、コンパクトミラーだ。
年頃の中学生の、特に激しく運動する運動部の男子には必需品ともいえる。
ぴょこぴょこ跳ねながら、コンパクトミラーを開いて二つ折りにしたナスはいそいそと鏡の前に
向かった。鏡に自分の後ろを映そう作戦である。
ナスは鏡の前に立ち、体をコマのように回転させた。
何度か回るうちに、鏡が真後ろにくる方向を見極めようとしているようだ。
ぼばよん。
回りながら鏡にぶち当たり跳ね返りはしたが、ナスはベストポジションを得た。
鏡には丸い背中が映っている。
しかし、このままではナスには見えない。
ナスはすかさず、体をゆすった。ヘタの中から何かが落ちてきた。
人形が持っているような小さな手鏡だった。
−−合わせ鏡だ!!

(これで俺も自分のしっぽが・・・みれる)

ナスは得意げに手鏡をかざした。
手鏡にはナスの紫の体が映っている。


紫。
むらさき?
ムラサキムラサキムラサキナス色。


映っているのが体のどの部分なのかわからない。
ナスは崩れ落ちた(転がった)。
ナスが静かになったのを感じて、跡部は再び部誌から顔をあげた。

「お前さぁ、そのうち手足がなくなるんじゃねーの」
「たり〜・・・」
「あってもなくてもかわんねーだろ」
「ナス!ナスッ!」
「ホント生物の資料集のアレみたいだな」

カエルの変態。
人間から茄子への・・・といいかけて跡部がまたニヤリと笑う。



「あー。まさしくヘンタイだしなお前」

「たっ・・・タリンコナースナースッッッッ!!!」



跡部は転がりのた打ち回るナスをペンでつつきがなら、
樺地が職員室からもどってくるのを待っていた。
跡部の暇つぶしと忍足の受難は表裏一体なのである。  <幕>